財産分与全般に関しては、「離婚したとき財産はどう分けるのですか」でお話させていただきましたが、夫が社長や医師などの自営業者である場合には、特別の考慮が必要となる場面があります。
夫が自営業の場合には、夫婦の財産とは別に、事業用財産があることも多く、これが財産分与の対象となるのか、財産分与の対象となるとしてどのように評価されるのかは重大な関心事です。
また、財産分与において夫婦の貢献度、寄与割合は原則として平等となりますが、夫の事業における資格や能力によっては、寄与割合に変更が加えられることがあります。
以下、ひとつひとつお話いたします。
財産分与の「対象」「評価」の問題
◇夫が個人事業を営んでいる場合
夫が個人事業を営んでいる場合には、原則として、事業の財産も財産分与の対象になります。事業の財産も夫名義の財産といえるからです。夫が個人の開業医である場合も同様です。
◇夫が会社の代表者である場合
夫名義の財産は少ないけれど、会社にはたくさん財産がある。
そんな場合、会社の財産を財産分与で分けてもらえたらいいですよね。
会社は夫とは別の人格となりますので、原則として会社の財産や事業が財産分与の対象になるというものではありせん。
もっとも、夫が会社の株式を持っている場合には、「株式」が財産分与の対象となります。
「株式の評価」の問題
株式がある場合、難しいのは非上場会社の株式評価の問題です。
上場会社では、公開されている市場の時価によって株式の価格を算出することができますので、その評価方法は明確ですが、非上場会社では、一律の算出方法があるわけではありませんので、評価を巡って争いになることも多くなります。
非上場会社の株価を評価する方法としては、①純資産価額方式、②配当還元方式、③類似業種比準価額方式、④収益還元方式があり、会社の規模や性質によってこれらを使い分けることになります。
当事者間で主張する評価方法が異なり、折り合いがつかない場合には、公認会計士による私的鑑定などを行うこともあります。
株式の評価が困難な場合、あまり望ましいことではありませんが、株式を現物分割、つまり妻と夫が株式を分けて持つということも最終的な選択肢としては考えられます。
◇夫が医療法人の代表者である場合
夫が医師であり、病院が医療法人化されている場合、医療療法人は夫とは別人格となりますので、原則として医療法人の財産そのものは財産分与の対象になりません。
もっとも、夫が医療法人の出資持分を有している場合には、株式と同じように出資持分を財産分与の対象とすることができます。
出資持分の評価は、原則として、純資産方式で行うことになりますが(最判平成22年7月16日)、医療法人の場合には、その特有の仕組みから、出資持分を医療法人の純資産評価額の何割程度と評価するのか、評価には困難を伴います。
◇会社や医療法人の財産が財産分与の対象となるケース
これまで、会社や医療法人の財産自体は財産分与の対象にはならないのが原則であるとお話してきましたが、例外的に、会社や医療法人の事業や財産を夫婦で築いたといえる場合等には、会社や医療法人の財産そのものが財産分与の対象となることがあります。
●たとえば、夫が営む事業に妻も従事してきた、他に従業員はほとんどいない、会社の財産と家計が混在しており、夫婦の財産はほとんどないというようなケースでは、実質的に会社の財産を夫婦の財産とみて、財産分与の対象と考えることもできると思われます。
●また、医療法人において、夫の出資持分がない場合でも、実質的に夫婦で病院を経営していた場合には、医療法人の財産を財産分与の対象とすることが考えられます。
◇第三者名義の事業用財産が財産分与の対象となるケース
親族が事業を行なっている場合など、第三者名義の事業用財産については原則として財産分与の対象とはなりません。
もっとも、実質的に夫婦の財産といえる場合、すなわち夫婦の貢献によって親族の営む会社の財産や事業が築かれたと言える場合には、第三者名義の事業用財産であっても財産分与の対象となり得ます。
寄与割合の変更の問題
財産分与において夫婦の寄与割合は原則として平等とお話ししましたが、夫に特別な資格や能力があり、これにより高収入を得ている場合には寄与割合の変更が行われることがあります。
●たとえば、夫が医師の場合、医師の資格を有し、これを活用して高額の収入を得ているという場合に寄与割合の変更が問題になる可能性があります。
●また、夫が社長の場合、経営者としての特別の手腕によって高収入を得ているというときには、寄与割合の変更が問題になる可能性があります。
このように夫が社長や医師などの自営業の場合には、財産分与の対象、評価、寄与割合等において個別の判断が必要になることがあります。
夫の事業財産が沢山ありそうだという場合、それが財産分与でどの程度もらえるものなのかは離婚を進めるかどうかにも関わる重大な事項であると思います。
これらはいずれも複雑な問題を含んでおりますので、ご自身の財産分与がどうなるのかわからないという場合には、ぜひ一度ご相談ください。