2024.02.01コラム

慰謝料請求は配偶者か不貞相手のどちらにするのか?(後編)

前回は、配偶者との離婚を望むか否かで不貞慰謝料を請求する相手が変わりうるというお話でした。
今回は、離婚を既に決断している場合にはどのような視点で相手を選択すべきかについて述べたいと思います。

不貞行為があった場合の慰謝料については、①不貞行為によって婚姻関係の平穏が害され、精神的苦痛を受けたことを理由として請求する場合(不貞慰謝料)、②不貞行為の結果、婚姻関係が破綻し、離婚を余儀なくされたために精神的苦痛を受けたことを理由として請求する場合(離婚慰謝料)の2つがあると考えられています。
配偶者については、まさに婚姻の当事者ですから、②の理由による慰謝料請求が認められることは特に異論はないかと思います。
しかし、不貞相手については、婚姻の当事者ではない以上、婚姻関係を維持するか終わらせるかに関与できる立場ではありません。そのため、不貞相手に対しては②を理由とする慰謝料請求は原則としてできません。例外的に、不貞相手が、夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚に至らせたと評価できるような特段の事情があるときには、不貞相手に対しても、②を理由とする慰謝料請求が認められる可能性があります(最高裁平成31年2月19日判決)。

上記の①②のいずれを根拠とするのかという点は、慰謝料額に大きく影響します。
単に不貞行為があったというだけではなく、離婚をせざるを得なくなったというのはそれだけ精神的ダメージが大きいとされているのです。

そうだとすると、不貞相手に対してのみ慰謝料を請求した場合には、認められる慰謝料額はどうしても少なくなってしまいます。
そこで、なるべく多くの慰謝料を獲得しようと思うならば、配偶者に対しても請求するのが得策ということになります。

ここでよく誤解されているのが、「不貞相手と配偶者の両方に請求するのが一番多く取れるのではないか」ということです。
不貞行為を理由とする慰謝料請求権は「不真正連帯債務」とされており、共同不法行為者の1人が慰謝料を支払った場合、他の共同不法行為者との関係でも、既に支払われた部分は支払い済みと扱われます。
ですので、例えば、本来獲得できる慰謝料額が200万円で、既に不貞相手から100万円の支払いを受けている場合には、配偶者からは差額の100万円しか支払ってもらうことはできないので、注意が必要です。