前回のコラムでは、家族法制の見直しに関する要綱に関する総論的なお話をしました。
今回は、要綱の中の共同親権に関し、どのようにして共同親権か単独親権かを決めるのかについて述べたいと思います。
現在の法律では、父と母が離婚する際、親権はいずれか一方が持つものとされています(単独親権)。
しかし、要綱では、離婚の際、親権者を父母のいずれか一方とすることも、双方を親権者とする(共同親権)こともできる内容となっています。そして、共同親権にするか、単独親権にするかは協議によって決めることができますが、協議がまとまらないときや協議ができないときは、家庭裁判所が、共同親権とするか単独親権とするか、単独親権の場合には父母のどちらを親権者とするかを判断します。
そして、家庭裁判所が親権者について判断するときには、子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して定めるものとされました。
ここで、父母と子の関係のみならず、父と母との関係も考慮事情としてあげられた背景には、離婚後の父母の間に子どもの養育に関して一定の信頼関係がなければ、共同親権とした場合に円滑に親権を行使することができず、結果、子どもの利益に反することになりかねない、という配慮があるものと思われます。
そのうえで、要綱では、家庭裁判所は、共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるときには、父母の一方を親権者と定めなければならないとされました。共同親権とすることにより子の利益を害すると認められる場合として、次の2つが明記されています。
①父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき
②父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受ける恐れの有無、協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき
①は、父母の一方から子どもに対する虐待(身体的なものに限らず、精神的、性的なものも含む。)が存在する場合が代表例としてあげられると思われます。
②は、父母間でDV、モラル・ハラスメント(モラハラ)等が存在するために、共同して円滑に親権を行使することができない場合を想定したものと思われます。また、親権を巡る紛争においては、子の利益の為というよりは、配偶者や子に対する支配を目的として親権争いをしているのではないかと疑われるケースがありますが、そのようなケースも、②に該当する可能性があると考えられます。
このように、共同親権が導入されることのリスクとしていわれていた、離婚後も共同親権者という立場を利用して元配偶者や子に対する支配が継続するという点については、単独親権が強制される場合を規定することによって一定程度配慮がなされているといえます。
しかし、単独親権でなければならない事情が存在することの主張・立証責任は、単独親権を求める側、すなわち、これまでDVやモラハラ等を受けていた被害者にあります。過去のDVやモラハラ等を立証できなくとも、親権を巡る裁判手続中の経過から②に該当すると判断されるケースが出てくる可能性もありますが、やはり、日頃からDVやモラハラ等を受けていることの証拠を残しておくことが重要になるでしょう。
なお、SNS上では、「離婚後共同親権の可能性があるなら結婚自体がリスクになるのではないか。それであれば事実婚を選択して、生まれた子を認知してもらえばいいのではないか」という意見もみられました。
しかし、今回の要綱では、父が認知した子についても、父母の協議によって共同親権を選択することができ、協議が調わないとき又は協議ができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をするとされています。つまり、事実婚を選択した場合でも、子を認知すれば、法律婚を選択した夫婦と同様の問題が生じる可能性があります。