夫が家を出て行った…
夫との間には夫名義の家があり、自分と子どもは夫名義の家に住んでいる。
そのような場合、夫から出て行くよう求められたら、出て行かなければならないのでしょうか。
離婚前と離婚後では置かれる状況や立場が異なりますので、以下分けてご説明します。
~離婚前~
まず、居住されている家が夫の単独名義ではなく、妻との共有名義であれば、共有持分に基づく使用収益が可能ですので(民法249条)、家から出て行く必要はありません。
では、家が夫の単独名義の場合はどうでしょうか。
この場合にも基本的に妻は夫名義の家に居住することが可能です。
その根拠ですが、ひとつは夫婦間の同居・協力・扶助義務(民法752条)に基づく構成です。
夫婦には、同居して、協力扶助する義務がありますので、これに基づいて、妻は夫名義の家に居住する権利があると考えられています。
また、夫と妻の間で、夫名義の家の使用貸借が成立し、これに基づき居住することができるとする構成もあります。妻を残して、夫が家を出る場合、遅くとも別居開始の時点で、妻の居住のための使用貸借(民法597条2項)が成立すると考えるのです。
次に、いつまで家に住むことができるかについてですが、夫婦間の同居義務は婚姻関係解消まで存続し、使用貸借とした場合も、婚姻解消までは目的に従った使用・収益が終了してないと考えられるため、いずれの構成に従った場合でも、婚姻関係が解消されるまで、基本的に夫名義の家に居住することが可能といえます。
もっとも、どのような場合であっても夫名義の家に居住し続けられる、というわけではありません。
妻の側に権利濫用にあたるような特段の事情がある場合、たとえば妻からのDVで夫が家を出るに至った場合などには、妻の居住権の主張が権利濫用等として認められない可能性があります。
同居義務あるいは使用貸借に基づき居住が認められる場合には、その占有は適法な占有となりますので、妻から夫に対し、賃料相当損害金を支払う必要はありません。
その場合、妻が家を無償使用し、住居費の負担がないことをもって、婚姻費用の調整が必要になる可能性はあります。
~離婚後~
離婚後は夫婦間の同居・扶養・協力義務がなくなりますので、同居義務に基づき夫名義の家に住み続けることはできなくなります。
居住の根拠を使用貸借と構成しても、婚姻関係が解消された場合には、通常使用貸借の目的が失われますので、とりわけ離婚後も夫名義の家に住むことにつき合意をしていた場合などでない限り、使用貸借契約は終了し、夫名義の家に住み続けることはできなくなります。
もっとも、離婚後の明渡し請求が権利の濫用に当たるなど特段の事情がある場合には、明渡し請求が認められないこともありますので、個々に考えていくことが必要となります。
他方で、財産分与等により、妻が家の名義の一部を取得した場合には、共有持分に基づき家に住む権利が認められます。
この場合、家を単独で使用している妻に対し、夫が賃料相当損害金の請求を行う可能性はありますが、共有状態が解消されない限りは、原則として家に住み続けることができると考えられます。